☆膝蓋骨脱臼   
  膝蓋骨脱臼は多数,遭遇する疾患である。一般に内方脱臼は小型犬に多く,外方脱臼は大型犬
にみられる。何れの場合も,先天性あるいはなんらかの障害によって発生する。発症に関与する
因子としては,内反股や外反股などのような構造学的異常,大体四頭筋腱の異常,浅い滑車溝
および脛骨の転位や脛骨粗面の変位が考えられている。膝蓋骨脱臼の程度について,putman
によって分類が行われており,診断や外科的治療法を決定する場合にこの分類が役立つ。
      ◇putmanに基づく分類
   グレードT:膝関節はほとんどが正常であるが,関節を伸展して指で押す事によって簡単に
             脱臼が起こり,緩めると元に戻る。
   グレードU:膝関節を屈曲した場合に脱臼が起こり,指で押すか関節を伸ばさないともとの位置に戻らない。
   グレードV:膝関節が脱臼したままの状態が多く,患肢を伸展すると時折元の位置に戻る事がある。
   グレードW:膝蓋骨は脱臼したままで,外科的処置を施さなければ整復出来ない状態。
 
    ☆前十字靭帯断裂   
  膝関節は,関節包,前および後十字靭帯,外側および内側側副靭帯,そして外側,内側半月板から
構成されており,これらの構成要素により関節にかかる負荷を軽減し,安定させている。これら構成要素
の1つである前十字靭帯は前内側帯と後外側帯からなっており,前大腿骨外側顆の内側から始まり,
脛骨の前顆間区に伸びて,脛骨の前方への異常運動や内転,関節の過度な伸展を防止するような
働きをしている。この前十字靭帯がなんらかの原因により損傷を受け,部分的あるいは完全な断裂を
起こす事で,膝関節を不安定にしたり,後の変性性骨関節炎を起こす原因となりうる。前十字靭帯断裂
は犬に多く発生し,特に大型犬では年齢に関係なく,運動量の激しい猟犬や競争犬あるいは成齡の
肥満犬に多くみられる傾向にある。発症原因として以下のような要因が考えられている。
    1,伸展状態で,関節に負荷のかかった状況で急激な脛骨の内転が起こる場合。
    2,脛骨が固定された状態で,膝関節が過度に伸展した場合。
    3,加齢による前十字靭帯や関節の変性。
    4,解剖学的構造異常,(外反膝や内反膝なと)の存在。
    5,免疫介在性の関節疾患(リウマチ性関節炎や全身性エリトマトーデスなど)の介在。
 
    ☆変形性脊椎症     
  推体の腹側,側面,終板などから骨増殖体が発生し,それにより推体間に大きな骨棘の橋(ブリッジ)
が形成された状態をいう。一般に中高齢の大型犬に発生しやすく,発生部位は第11胸椎から腰仙椎に
多く,頸部,前胸部に起こる事はまれである。骨棘は頸部に出来る場合はほとんど腹側正中線上であり,
T1からT11までは正中線の左右に,T11からL4-L5までは腹側正中線上に,腰仙部では側面部に
よくみられる。推骨の骨増殖体は互いに隣接する推体間の不安定面に接する終板から形成される。
推体の不安定を起こす原因としては以下のものがある。
    1)椎間板の変性
    2)椎間板の破壊を伴う推骨の変性
    3)先天性推骨奇形に続発する不安定
    4)椎間板炎,椎間板脊椎炎に続発する不安定
    5)造窓術後に起こる推体の不安定化                                     
 
      ☆骨関節炎     
  骨関節炎は主に運動範囲の広い関節において関節軟骨が変性性変化に陥るために生じる疾患である。
内眼的には骨唇形成や関節軟骨の消失,X線学的には軟骨下の骨硬化,関節腔の狭小化および骨棘形成
などによって特徴づけられる。原発性あるいは二次性骨関節炎に分類される。
   1,原発性骨関節炎(特発性骨関節炎)
     老齢になって発生し,主に体重を支える関節において緩除に進行するもので,病因が不明である。
   2,二次性骨関節炎
    素因があり,それによって関節面の障害や変形を来して発生する。二次性関節炎の素因となる
     原因として,以下のものが考えられている。
       1)外傷:関節内骨折による関節面の不一致。
             関節の支持軟部組織(靭帯,関節包,半月など)の損傷による不安定。
       2)炎症性疾患:感染性関節炎,免疫介在性関節炎。
       3)先天性あるいは発育性疾患:股形成不全,骨軟骨症,レッグペルテス,肘形成障害
           ◇病態
  正常な関節では,軟骨表層の軟骨細胞から主に膠原基質が生成され,続く移行帯の細胞から少量の
膠原基質と大量のプロテオグリカンが生成される。また,基質を分解する蛋白分解酵素も放出されており,
通常はこれらのバランスがコントロールされて,関節軟骨の弾力性を生み,基質内の膠原線維の消耗を
防御している。関節に対し,何らかの物理的あるいは化学的損傷が生じると,蛋白分解酵素の放出が増加し,
基質とのバランスが崩れることになる。そのため,軟骨の弾力性が失われ,そこに機械的刺激が加わると,
軟骨表面に亀裂が生じ,細胞が障害を受ける。基質の減少,軟骨細胞の障害,壊死および分解産物の
増加は滑膜炎,包膜炎を引き起こす事となる。これらの一連の変化が関節での悪循環を招き,病態が
進行していく。
  
     ☆細菌性関節炎  
  関節への細菌感染による関節炎で,感染性関節炎の原因の中で最も多くみられる。感染経路によって
関節の侵され方が異なり,たとえば血行性では複数の関節が侵され,他の経路では単一の関節が侵される
ことが多い。また変性性関節炎を起こしている関節では,より感染が起こりやすいと考えられる。
   ◇感染経路
1,血行性
1)新生子臍帯炎による感染:母犬が臍帯を噛みちぎり,腹壁を舐める時に感染が起こることがある。通常,
   臍帯は数p残り,乾燥して感染が起こらないように障壁を形成するが,残った臍帯が非常に短い場合,
    感染が起こりやすくなる。
 2)口腔,泌尿生殖器などの感染から波及:これらの部位の感染は老齢に成る程発生率が増大し,
        そこから細菌性敗血症を起こし,細菌性関節炎を発症させる事がある。たとえば,
          腎盂腎炎,膀胱炎,子宮蓄膿症,前立腺炎,歯肉炎などが敗血症に伴う。
3)細菌性心内幕炎からの波及。
2,骨髄炎や周囲軟部組織感染からの波及
3,咬傷による関節内への直接侵入
4,医原生
 1)外科手術中あるいは後の管理失宣
 2)不十分な減菌による関節内注射                                        
 
                 犬の診療最前線・interzoo より 

inserted by FC2 system