☆臍炎と陰門炎 
  全身症状は示さないが,しきりに陰門部を舐める。そして、陰門からの排泄物および粘膜の充血がみられる。
膣の炎症であり,膣の奇形(狭窄,膣弁遺残,二重膣,発育不全など)や陰核肥大(半陰陽と考えられ,
テストステロンが分泌されている。),異物,膣の外傷,または腫瘍など,非感染性でもその刺激により
続発する。泌尿生殖器疾患からも波及する事がある。膣炎においては検出された細菌が病原性を発揮
しているか否かは不明である。それは正常な犬の膣のフローラにも含まれている為である。(ブドウ球菌,
レンサ球菌,大腸菌,パスツレラ,プロテウスなど)。急性膣炎の膣スメアには多数の好中球がみられるが,
その形態はさまざまである。原 因菌を貧食しているものもある。慢性膣炎の膣スメアにはマクロファージと
リンパ球がみられる。膣の剥離した上皮細胞に細胞質内封入体(ウレアプラズマ・マイコプラズマ・クラジミア)
がみられる事があるが,これは無症状犬でも検出される事がある。犬ヘルペスウィルスによる膣炎は,
交尾により伝播する事が多く,不妊,流産,死産を起こす。膣粘膜に水砲濾胞を形成するが病変は発情前期
に目立ち,休止期には消退する。治療法は確立していない。また感染犬は繁殖に供してはならない。
小胞性膣炎は原因不明で,慢性となり,治療にほとんど反応しない。症状は陰門の粘膜と皮膚の境界に
小胞病変がみられ,これは自己免疫性疾患と関連している。子犬はしばしば初回発情前に膣炎を起こす
ことがある。これは正常ではないが,通常初回の発情後には治癒する。
                           ☆膣脱(膣の過形成) 
  本症は膣壁が陰門から脱出するものをいい,膣壁全周が脱出し,ドーナツ状を示す場合と,膣低部の一部
が過形成を起こしドーム上に脱出するものがある。発情前期,発情期に起こる。この時期にエストロゲンの影響
により膣粘膜が過形成を起こす。また,骨盤の靭帯,骨盤周囲組織,陰門括約筋を弛緩させる事も原因となる。
通常は発情後には退縮する。1度発症すると発情の度に繰り返す事が多い。
     ☆前立腺肥大 
  臨床的に前立腺肥大と呼ばれる病態は,正しくは良性の前立腺過形成 benignprostatichyperplasia(BPH)
である。良性の前立腺過形成はアンドロゲンとエストロゲンの比率の変化が前立腺に及ぼす加齢性の変化で
ある。テストステロンは精巣から分泌される代表的なアンドロゲンであるが,このテストステロンは前立腺で
酵素の働きによりジヒドロテストステロンとなり,このホルモン物質が前立腺の過形成を引き起こす。酵素は
間質より前立腺上皮に多く存在するため,加齢に伴いアンドロゲンが増加すると腺組織の過形成を生ずる。
さらに年齢が進みアンドロゲン産生が低下しても、エストロゲンがアンドロゲンレセプターを増加させるので,
エストロゲンの産生 により過形成は進行する。腺組織の過形成により前立腺は肥大し,これが限度を
超せば臨床症状を発現する。肥大した前立腺には実質内嚢胞がみられる事がある。BPHの発生機序には
上記のホルモン説のほかに胚の再起,幹細胞の増加,前立腺内成長因子濃度の増加の3つの説が唱え
られている。BPHは一義的にはアンドロゲン作用の増強の結果であるが,エストロゲンの過剰もまた
前立腺肥大を引き起こす。前立腺尿道,前立腺間質,尿道周囲の前立腺導管上皮にはエストロゲンの
レセプターが存在する。BPHの犬では腺上皮にも存在する。そのため過剰のエストロゲンは前立腺の
線維筋組織の成長,前立腺上皮の化生,前腺液の分泌停止をもたらし,これらの変化で前立腺はさらに
腫大する。エストロゲンの過剰の原因にはセルトリ細胞腫のような内因性のものとエストロゲン療法など
外因性のものがある。      
      ☆前立腺嚢胞  
  前立腺に接して1つまたはそれ以上の嚢がみられる事がある。これらは雄の子宮が嚢化したもの,
あるいは前立腺を起源とする嚢であり,前立腺過形成でよくみられる前立腺内の複数の小さな嚢とは
異なる。雄の子宮は前立腺内の尿道の背側壁に開口する茎を持つ2角の構造であり,胎子に雄性の
特徴が出るにしたがって前立腺内に退縮する。この構造がなぜ嚢化するかは不明であるが,
エストロゲン療法,内因性エストロゲン過多,先天性欠隔などが考えられる。この雄の子宮が嚢化した
場合,嚢は前立腺の背側中央線から始まりしばしば尿道と交通する。前立腺は犬の年齢相応に
過形成がみられる事もある。なったものであり,前立腺の頭方,側方,尾方,肛門側方あるいは
会陰などの方向へ広がる。尿道との交通はほとんどの場合みられない。これらの嚢は,起源は
異なってい ても臨床症状および治療法は同じである。  
       ☆前立腺炎  
  犬の前立腺炎は病原体の感染による急性または慢性の炎症で膿瘍を併発する場合としない場合がある。
嚢胞,腫瘍,扁平上皮化生のような前立腺の疾患があると前立腺は感染しやすくなるので,これらとの
併発症であることも多い。感染は通常,尿道からの上行感染であるが,血行感染や膀胱内の尿や精液
からの感染もある。感染菌としては大腸菌,スタフィロコッカス,プロテウス,シュードモナス,
ストレプトコッカスなどがあげられる。真菌やマイコプラズマによる感染の報告もある。急性前立腺炎は
前立腺の急性炎症であり重度の臨床症状がみられる。一方,慢性前立腺炎は急性前立腺炎に続発
することもあるが,無症候性で再発性の膀胱炎や尿道炎を詳しく調べていく過程でみつかることもある。
また前立腺膿瘍は前立腺実質内にさまざまな大きさや数の腐敗性あるいは膿性の滲出物のポケットが
形成されたもので,前立腺の腫大と感染に関連したさまざまな症状を示す。これらは診断基準や治療方針
にも差異があるのでそれぞれ急性前立腺炎,慢性前立腺炎,前立腺膿瘍に分けて述べる。            
         ☆陰睾
  精巣が陰嚢に下降せず腹腔内または鼠径から陰嚢までの睾丸の移動経路上に位置する状態を陰睾
といい,一側性あるいは両側性に 起こる。陰睾側の精巣では精子の発生が阻害され,両側性の陰睾の
場合には不妊症となる。また陰睾精巣は正常位の精巣よりもセルトリ細胞腫や精上皮腫の発生頻度が
高い。陰睾精巣におけるセルトリ細胞腫の発生率は50%,精上皮腫の発生率は33%といわれている。
犬種別ではトイ・プードル,ミニチュア・プードル,ポメラニアン,ヨークシャア・テリア,ミニチュア・
ダックスフント,マルチーズ,シェットランド・シープドッグなどに発生頻度が高い。
      ☆可移植性性器肉腫
  可移植性性器肉腫は(TVT)は移植性による伝播が記録された最初の腫瘍であり,犬種,年齢,性別
などに関係なく発生がみられる。TVTは主として交尾により,また犬の社会行動である舐める,咬む,
かくなどによる直接的な接触によって,腫瘍を持った動物から剥離した腫瘍細胞が新たな宿主動物の
小さな傷より侵入し,伝播が成立する。このために,犬が自由に動き回る地域で頻繁に発生をみる。
腫瘍細胞のの起源は,現在,単球ーマクロファージ機構にあると考えられている。TVTは良性の腫瘍
であり,60%は接触後2〜3週間で非常に速い発育をし,その後発育は緩慢となり2〜6ヶ月以内に
自然消退してしまう。残り40%が局所に腫瘍の状態で維持される。転移の発生率は不明であるが,
ごく僅かである。 
        ☆卵巣の腫瘍 
  卵巣の腫瘍は,犬では頻繁にみられるものではない。また,避妊手術で発見される事もある。
 1,生殖腺基質性腫瘍(顆粒膜細胞腫瘍,莢膜細胞腫,黄体細胞腫)
    犬においての卵巣腫瘍の35〜50%を占める。転移は顆粒膜細胞腫瘍の50%,
      未分化細胞腫瘍の30%に起こる。
2,胚細胞腫瘍(未分化胚細胞腫,奇形腫)
    未分化胚細胞腫と奇形腫はともに卵巣腫瘍の20%を占めており,転移は未分化胚細胞腫で20%
       以下,奇形腫では30%以上である。転移場所は腹腔内臓器,骨,肺,リンパ節などてある。
3,上皮性腫瘍(腺癌,腺腫)
    最近の研究では,上皮性腫瘍のうち64%は腺癌であり,そのうち半分が転移を起こしていたとの
          報告がある。転移巣はリンパ節,肝臓,肺などである。                             
     ☆子宮の腫瘍 
  子宮に発生する腫瘍には,良性のものでは平滑筋腫,線維腫,脂肪腫があり,悪性のものでは
平滑筋肉腫,子宮腺癌,リンパ肉腫などがある。その中でも,平滑筋腫は最も一般的にみられる腫瘍
であり,犬と猫の子宮の腫瘍の85〜95%に達している。また犬における悪性腫瘍は平滑筋肉腫が
一般的である。これらの腫瘍は避妊手術や剖検の際に発見されることが多い。   
 
               犬の診療最前線・interzoo より                 

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