☆避妊と人工流産 
  避妊は,望まない出産による子犬の像か防止,発情出血や発情行動の抑制など,主として動物愛護の
面から,あるいはコンパニオ ンアニマルとしての飼育,管理を容易にするために,通常雌犬において実施される。
また,不幸にも誤って交配が行われた場合には, 人工流産が選択されることもある。
  ◇避妊法
  避妊法には,外科的避妊法,化学的避妊法,物理的避妊法がある。外科的避妊法には,卵巣摘出術,
卵管結紮術,卵巣子宮全摘 出術などがあるが,飼い主が永久的不妊を求める場合術後の安全性および
有益性から,現在では卵巣子宮全摘出術が最も多く選択されている。
  ◇卵巣子宮全摘出術
《有益性》
  1,永久的避妊法であるので,術後飼い主は発情の回帰や妊娠の不安を抱かずにすむ。
  2,子宮蓄膿症を初めとする子宮疾患,卵巣疾患の未然防止につながる。
  3,乳腺腫瘍の発生率を減少させる。
    1度も発情を経験せずに卵巣子宮全摘出術を行った場合,乳腺腫瘍の発生率は極めて低いが,
     1回目の発情後に手術を行った場合には数%に,複数回の発情後では数十%に増加する
       といわれている。
  4,偽妊娠を繰り返す犬では,その予防となる。
  5,性周期のいずれの段階でも手術可能である。
  6,通常,健康状態は良好であるため,麻酔に対する危険性は極めて低い。
《合併症および問題点》  
  1,非可逆的避妊法であるので,術後繁殖に供することはできない。
  2,若齡での手術は,中齡以降陰部周囲から腹部,体幹,耳介などにエストロゲン反応性の
        両側対称性脱毛を示すことがある.
  3,肥満に陥りやすい傾向にある。
    一説には血中エストラジオール濃度の低下により,血中脂肪酸のエステル化および組織への
        沈着化の抑制作用が阻害されるといわれている.体重の増加傾向が認められたら,
          食餌制限と運動によりコントロールが可能である。
  4,尿の失禁(詳細は,エストロゲン反応性尿失禁の項=P.359=を参照)
  5,発情後期に手術を行うと手術後一過性の偽妊娠を生じることがある。これは血中プロゲストロン
       濃度の急激な減少によるものと考えられる.
  6,発情の再発:卵巣の摘出が不完全であった場合,取り残した卵巣組織が機能することにより,発現する。
  7,けん部の瘻管形成および肉芽腫:細菌に汚染された非吸収性縫合糸の使用による組織反応である。
  8,子宮蓄膿症:子宮体の摘出が不完全であった場合,取り残された子宮は内因性あるいは外因性
      プロゲステロンの影響を受けると,子宮蓄膿症を生じる可能性が
   ◇化学的避妊法
  犬の化学的避妊法は,主として効果持続時間の比較的長い合成プロゲステロン製剤が使用されている。
いずれの製剤も,Gn‐RHも しくはゴナドトロピンの分泌抑制,卵胞の発育・排卵を阻止,発情徴候発現を
抑制することにより,性周期を中断させるものである。
《有益性》
  1,可逆的避妊法であり,投与を中止すれば繁殖に供することができる。
  2,麻酔および手術の危険性を回避できる。
《留意点および問題点》
  1,避妊の継続にはプロゲステロン製剤の定期的投与が必要である.
  2,プロゲステロン製剤の長期連用あるいは多量使用により副作用発現の可能性が大きく,
外科的避妊に代わるものではない。
《副作用》
  合成プロゲステロン製剤はいずれもその活性に程度の差はあるにせよ,黄体ホルモン様作用を
有することを念頭に置き使用するべきである。
   1) 嚢胞性子宮内膜過形成および子宮蓄膿症
   2) 乳腺腫瘍
   3) 先端巨大症
   4) 糖尿病
   5) 肝臓疾患
   6) 妊娠犬に使用すると分娩が遅れ胎子が死亡する恐れがある。
   7) 食欲増進と体重増加
   8) 乳腺の腫大
   9) 活動性の低下〜無気力
   10)気質の変化
   11)偽妊娠
   ◇物理的避妊法
  可逆的避妊法である。
《隔離》
 1,発情前期の徴候を確認したら,それより3週間雌犬を隔離する。発情前期に雌犬が雄を許容する
ことはないが,性フェロモンの分泌により,雄犬を誘引するからである。
 2,妊娠を回避することはできるが,発情出血や発情行動を抑制することはできない。
 3,発情期間中の雌犬の性的行動は飼い主の予想をはるかに上回る。柵を乗り越えたり扉を破壊し脱走する
     ことも少なくないなど,隔離の難しさを飼い主に説明した上で避妊方法の選択に当たるべきである。
《その他の方法》
 交尾結合防止のための膣内器具の使用が試みられたが,現在のところ確実な避妊効果は得られていない。
   ◇人工流産
 誤って交配が行われた場合,薬物による受胎の阻止や妊娠の中絶には危険性を伴う事が多い。したがって,
母体の安全を第一に考え,飼い主へは出産させるよう助言すべきである。しかし同意が得られないことも
少なくなく,その場合には帝王切開もしくは将来繁殖の予定がないことを確認して卵巣子宮全摘出術を
適用すべきである。
  1,卵巣子宮全摘出術;母体への影響を考慮して妊娠の前半に行う事が望ましい。
  2,受胎阻止;エストロゲンの有する以下の作用を応用して,受精卵の着床を阻止させる。
   1)受精卵の卵管通過を遅延させることにより,卵を変性させ,着床能力を消失させる。
   2)子宮内膜の増殖や水腫を生じさせるなど,子宮内環境を変化させることにより着床を妨げる。
  3,妊娠中絶;多くの薬物の使用が試みられてきたが,安全確実な妊娠中絶法は確立されていないのが
      現状である。
  4,機械的方法;犬では黄体の除去や,子宮洗浄法,胎盤剥離法などの機械的方法を用いることは
         困難である。           
 
                犬の診療最前線・interzoo より 

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