☆肝性脳症  
  肝性脳症は、胃腸管内で産生される種々の毒性物質(アンモニア,メルカプタン,短鎖脂肪酸,
γアミノ酪酸,インドール,アミン類など)の解毒が重度の肝障害で不完全となり、またこれに肝障害自体
による代謝異常も加わって、複雑多彩な中枢神経症状を示す病態をいう。
    ◇原因
 1.先天性異常
    1)先天性門脈異常:犬では、肝性脳症の最も普通の原因。現在までに5つのタイプが確認されている。
多くは若齡犬に発症。
      a)大型犬:大きな1本の肝内シャントが多い。(28%)
        ドーベルマン・ピンシェル,ゴールデン・レトリーバー,ラブラドール・レトリーバー,
         アイリッシュ・セッター,サモエード,アイリッシュ・ウルフハウンドなど。
      b)小型犬:1本の大きな肝外シャントが門脈と後大動脈の間(45%),
        あるいは門脈と奇静脈との間(5%)に形成されることが多い。
        ミニチュア・シュナウザー,ミニチュア・プードル,ヨークシャー・テリア,ダックス・フントなど。      
    2)先天性尿素回路酸素欠損症(原発性高アンモニア症)                           
 2.後天性異常・重度の肝実質障害(慢性肝機能不全)
    1)後天性門脈血管系異常
      多数の短絡血管が、門脈圧亢進を誘発する疾患で形成される。一般に中
      齡以降に発症。
      好発犬種:ドーベルマン・ピンシェル,ジャーマン・シェパード
        a)肝硬変
        b)慢性肝炎
        c)肝腫瘍
        d)動静脈瘻
        e)先天性心不全
        f)肝門脈線維症
    2)重度の肝実質障害(慢性肝機能不全)
        a)肝硬変
        b)肝リピドーシス(飢餓,糖尿病,肥満,薬物中毒,毒物摂取)
        c)肝細胞毒
        d)炎症性肝疾患
        e)広範な肝腫瘍 

     ☆膵炎
 sarner(1993)のヒトにおける膵炎の定義および分類を参考に(表1)、これを犬に適用している。
表,1  膵炎の分類
   ◇急性
 病因・・・さまざま
  重症度
   軽度:多臓器不全は伴わず。合併症なく回復。
   重度:多臓器不全。合併症(偽シスト,膿瘍)
    ◇慢性
 病因・・・さまざま
  重症度
   軽度:形態学的な変化は最小限。臨床症状のない程度の膵外分泌および内分泌不全。
   重度:重度の形態学的な障害膵外分泌不全または糖尿病
急性膵炎は突然発症するもので、再発する急性炎症は、病理学的変化をほとんど伴わない炎症発作の
繰り返しである。慢性膵炎は不可逆性の形態学的変化と永続的な機能障害の可能性を特徴とするような
持続性の炎症疾患である。いずれも獣医臨床では確定診断の難しい病気の1つである。
  1.栄養:肥満犬に急性膵炎の発症が多く、また高脂肪食の摂食後にもみられる。
  2.高脂血症:高脂血症を持つ犬が高脂肪食摂食後に発症することがある。
    高リポプロテイン血症のミニチュア・シュナウザーでの発症がある。
  3.高カルシウム血症:正確な原因は不明
  4.薬物:ステロイド剤,テトラサイクリン,サイアザイド,サルファ剤など。
  5.感染症:パルボウィルス感染症での急性膵炎。
  6.膵外傷,虚血:腹腔内の外科操作,ショックなど。
  7.十二指腸内容逆流:十二指腸内圧の急増により起こるとされる。                       

    ☆ 臍ヘルニア
大網あるいは腸管の一部が臍輪から脱出して腹部の皮下に膨隆するものをいう。
   ◇ 原因
  多くは,先天性の臍ヘルニアに起因するもので,胎生期には腹壁は頭側,尾側及び二側の外側雛壁から
出来ており,臍の動静脈・卵巣管及び尿膜の通過口を形成している。この通過口を臍輪といい,娩出時には
しっかりと閉鎖され瘢痕が形成される。これがいわゆる“臍”である。そしてこの臍輪がしっかりと閉鎖されなかった
場合や,臍輪自体が大きすぎたり,臍輪の収縮の悪かったものが臍ヘルニアへと移行する。
    臍ヘルニアは以下の3種類に分類される。
 1,臍帯ヘルニア(先天性)
   閉鎖しない臍帯内に腹部内蔵が脱出したもので,一種の内蔵変位に属する先天性奇形である。
 2,若年性臍ヘルニア(先天性)
   臍輪の閉鎖不完全なものに腹圧を高めるような誘因が作用した場合に発生する。
 3,老齢性臍ヘルニア(後天性)
   高年齢の動物に腹水,腹腔内腫瘤,肥満等の腹壁誇張が誘因となって発生する。
 
   ☆ 会陰ヘルニア
  会陰部とは,体壁の一部として骨盤後口を覆い肛門及び泌尿生殖器を取り囲む体壁部分をいう。会陰部を
構成する筋肉には,肛門挙筋,尾骨筋,仙腸結節靭帯,浅殿筋,内閉鎖筋及び肛門括約筋があり,肛門挙筋,
尾骨筋,内閉鎖筋が外肛門括約筋に接して直腸を支持している。
  会陰ヘルニアは直腸を支持し骨盤腔の隔壁を構成しているこれらの筋肉の非薄化及び欠損等が生じ,
腹腔内臓器,骨盤腔臓器及び後腹膜の脂肪が会陰部皮下へ脱出するものである。会陰ヘルニアは通常,
肛門挙筋と外肛門括約筋の間に起こるが,肛門挙筋と尾骨筋の間に起こる事もある。肛門挙筋の極度な
脆弱化がみられ,更に尾骨筋と内閉鎖筋の退縮が認められる。
  これらの結果より直腸の支持力は消失し坐骨腸骨窩に逸脱あるいは伸展し排便困難等の症状が発生する。
これに伴い肛門の左右側面の皮下に膨隆がみられる。会陰ヘルニアの発生率は去勢していない雄犬に高く,
2/3が片側性である。
     ◇ 原因
  1,会陰ヘルニアの多くは去勢していない老年の雄犬にみられ,睾丸腫瘍や前立腺肥大等を合併している事も
     あり,この事から本症の原因にはエストロゲンの不均衡が強く示唆されている。
  2,また上述のような筋肉の萎縮は筋繊維の構造に異常はなく,多くは筋の径の縮小化である事から,神経学的
     異常を唱える説もある。
  3,Collie,ボストン・テリア,ボクサー,ペキニーズ,シーズー等での発生率が高く遺伝的素因との関連も
     考えられている。
  4,慢性の便秘も原因の1つとして考えられている。
上記のような様々なファクターが関連し発症するものと考えられている。

         ☆陰嚢ヘルニア 
  雄犬の鼠径ヘルニア(間接型鼠径ヘルニア)に続発して発生し、腹腔内臓器や大綱のような
鼠径ヘルニア内容が鼠径管(内鼠径 輪から外鼠径輪を結ぶ管)を通って鞘状突起の内部に入るものを言う。
片側性と両側性があり発生率は比較的低い。
  ◇原因
 1.先天的要因  
    先天的に内鼠径輪や鼠径管の拡張により発生する。
 2.後天的要因
    鼠径ヘルニアを生じた際に腹圧の上昇により、ヘルニア内容が外鼠径輪より鞘状突起の
       内部に入り陰嚢に達する。
 
     ☆毒物による肝疾患
  毒物による障害は毒物の種類,量,あるいは犬の年齢,妊娠など生体側の要因により臨床的に
明らかな症状を示さないものから、 神経系,消化器系,造血系,呼吸器系,あるいは循環器系など
全身諸器官の障害を起こすものまでさまざまである。その中で肝臓は 毒物の代謝と排泄を行う中心的な
臓器であり、それゆえに毒物による障害を受けやすい器官でもある。肝臓には非常に大きな予備機 能
があり、毒物の短期間の曝露による軽度の肝機能異常や肝障害では臨床上の異常所見はみられない
ことがある。しかし、継続的 に毒物に曝露されれば(毒性が強い場合は短期間の曝露でも)胚不全に
陥ることがある。診断は問診,臨床症状および検査を総合して行う事が基本であるが、問診は重要で
注意深い問診により毒物を特定できることも少なくない。臨床症状から特 定の毒物を断定することは
困難な場合が多い。しかし、毒物による肝疾患かあるいは他の原因による肝疾患かの判断は重要である。
肝疾患の病態を評価する上で検査は必要であるが、単独の検査で確定診断を下す事はできない。
肝酵素検査,肝機能検査および肝 生検などにより評価する。毒物による疾患では初診時に緊急の
救命処置が必要とされることがあり、このような場合その治療に専念し なければならない。
問診や診断は症状がA支持的・症状に基づく治療,およびB特異的解毒薬の適用であり、治療の
3大原則である。しかし、毒物曝露の回避はできても毒物の特定は不可能であったり、特定できても
解毒薬がない場合が多く、支持療法が重要で、 体温の調節,呼吸と心血管系機能の維持,酸塩基平衡
の是正、中枢神経系障害の制御などが含まれる。
  
    ☆薬物による肝疾患 
  薬物を治療の目的に使用する場合、その薬物の主作用のほかに通常いくつかの副作用を現す。
治療上不要なあるいは有害な場合もあり、特に多くの薬物が肝臓に障害を与え事が知られている。
経口的に投与された薬物は胃あるいは腸管から吸収された後、 門脈を経て肝臓に到達する。
薬物が肝臓組織に対し毒性を有する場合、あるいはなくても、肝臓で代謝された後の代謝産物に
毒性が ある場合には肝障害を引き起こすことがある。肝臓の組織の再生能力は非常に高く、
薬物による障害に対しても機能を損なわない様に働いている。このように大きな機能容量を持つ
肝臓が障害され臨床上の疾患を示すときには肝障害はかなり進行した状態にあると考えるべきである。
いかなる薬物であれ推奨される用量の投薬であっても長時間の連用では注意が必要である。また、
飼い主が投薬 する場合は過誤による場合が少なくない。薬物による肝疾患の臨床症状は
血清トランスアミナーゼやアルカリ性ホスファターゼの上昇 するものの無症状のものから急性の
劇症肝炎に至るものまで多様である。一般に急性の障害では細胞障害(変性,壊死,脂肪症)か
胆汁分泌障害あるいは両者の複合型である。慢性では脂肪化,線維化,肝硬変などである。
薬物治療を受けていて、肝酵素検査で血清トランスアミラーゼやアルカリ性ホスファタ-ゼの上昇,
肝腫大,黄疸などがみられるときには、薬物の副作用を考慮しなければならず、肝機能検査あるいは
必要であれば生検を行い肝障害の評価を行う。薬物が原因の肝障害の治療はまず投薬を中止し
それ以上の 障害の拡大を防ぐ事が大切である。低血糖症などを防ぐことが重要である。しかし、
薬物起因性の肝障害の多くは、不適切な投薬や長期間にわたる連用に原因があるこ とが多く、
薬物を用いる場合には常に副作用について考慮し、未然に防止しなければならない。

 
                   犬の診療最前線・interzoo より   

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