☆乳糜胸 
  乳糜胸とは、さまざまな原因で胸腔内に乳糜液(高濃度のトリグリセリドーカイロミクロンーを含む
腸リンパ液)が貯留した状態をいう。原因の多くは外傷性といわれ、横隔膜ヘルニアや縦隔膜あるいは
心臓の手術後に認められることがある。また縦隔膜の腫瘍による圧迫や破裂が原因する場合や著しい
咳嗽や嘔吐のための急激な胸腔内圧の変化が原因することもあるとされている。症状は多くの場合
慢性経過をとり、叙々に削瘻が目立つようになるが、急性の経過をとる場合には、他の胸膜滲出液貯留
による疾患、すなわち水胸や 膿胸の場合と同様の臨床症状が観察される。筆者はX線検査後の胸腔穿剌
や剖検時に本症と思われる経験はあるが、正式に診断をし、 内科的あるいは外科的治療を施した
経験はない。したがって、ここでは文献的知識について述べることにする。
 
      ☆気胸
 
  気胸とは、胸腔内に遊離した空気あるいはガスが貯留した状態をいう。原因としては、外傷による
胸壁部の穿孔によって外界と胸腔内との空気の交通が認められる場合と、肺実質や気管,食道の損傷
によって空気の交通が認められる場合が多い。(開放性)。また、胸腔穿剌や胸腔周辺の手術,過度の
陽圧換気など医原性により続発することもある。一方胸部の損傷を伴わず原因がわからない 場合を
自然気胸あるいは特発性気胸という。(閉鎖性)。いずれにしても胸腔の陰圧状態が失われるため、
吸気障害や肺の虚脱状態が発現し顕著な呼吸困難が認められることになる。また、胸部の損傷部から
一方的に空気が流入し胸腔内の陽圧化が進行する場合を緊張性気胸といい、この場合には早期に
陽圧化を抑制しなければ、致死的な経過をとることになる。一般的な症状としては、呼吸促迫,呼吸困難,
胸部の疼痛が観察され、緊張性気胸のように多量の空気が侵入すれば胸部が膨満した状態になること
もある。気管,気管支損傷が原因する場合には鼻腔や口腔からの喀血が観察され、食道部の損傷に
よる場合には嘔吐や喀血が認められる.                                                   
   ☆縦隔気腫
  縦隔とは左右の肺の間に存在する共同溝的な構造物で、その中には、気管,食道をはじめ心臓,
大血管,胸管などが収められる.この共同溝的空間を縦隔といい、縦隔洞内になんらかの原因で
遊離空気やガスが貯留した状態を縦隔気腫という。原因としては、気管の破裂や穿剌傷,肺胞基低膜の
破裂,肺周囲の襄胞や水疱の破裂,食道の穿孔,頸部の深傷などがあげられる。また、まれではあるが
ガス産生菌の縦隔感染が原因する場合もある。通常は蓄積した空気は自然に吸収され無症状で終わる
ことが多いが、縦隔洞内に多量の空気やガスが貯留すれば重症となり呼吸困難を現したり、全身的気腫を
続発することもある。症状はその原因によってさまざまである。気管の損傷が原因する場合には、
咳嗽や呼吸促迫や努力生呼吸が観察される。食道の損傷が原因する場合には食欲不振や吐出,
嚥下困難,流涎,元気消失などが認められる.
 
    ☆横隔膜ヘルニア
  横隔膜ヘルニアは、なんらかの原因によって横隔膜に出来た裂孔をヘルニア輪として腹腔内の
臓器が胸腔内に嵌入した状態をいう。 特に犬では交通事故などによる外傷が主因となる。横隔膜の
筋部に発生した亀裂や大静脈裂孔,食道裂孔にヘルニア輪をつくることが多いといわれている。
症状は裂孔の大きさや嵌入した組織の種類あるいはその量によってさまざまである。一般的には
嵌入した腹腔内臓器による胸腔域の縮小と横隔膜の機能不全により呼吸不全を招くことになる。
また胃や腸管の嵌入によって嘔吐をはじめとする 消化器症状を認めることもある。肝臓の嵌入があれば、
黄疸をはじめ肝機能障害が認められることもある。まれに先天性の横隔膜ヘルニアや心膜横隔膜ヘルニア,
横隔膜欠損なども報告されている。 
 
 
                           犬の診療最前線・interzoo より 

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